■ スペシャリティ マシン
今週は借り物のPCで更新しております。
我社から最も近いサス屋さんのBLITZ・SCHNELLでフォークスプリングの試作を依頼しました。
同社は(株)ショーワと取引されているので、非買品のパーツを頼める心強いショップです。
5月に動作確認のため試走した2WDのフロントフォークに入れ換えるためのスプリングです。
この2WDはフロントの駆動系だけで10kgの重量増となっており、ノーマルのフロントフォークでは性能不足は明らかでした。
操舵系の等速ジョイントのベアリングホルダーがボトムブリッジに衝突するため高速でギャップを通過するときに危険な状態になるため、なんとか改善したいと考えてフォークスプリングの強化を計画したものでした。
このマシンは月間ガルル1992年1月号に試乗インプレッションが掲載されていましたので覚えている読者も多いのでは。
開発者の吉田さんと打田編集長が仲がよく実現した取材だったと聞きましたが
雑誌では取材協力者の不利になることは書けないので、記事の中ではフロントサスやハンドリングの問題点は濁して書かれています。
只、これからの改善すべき課題とだけ書いてありましたが、譲り受けた私が改善の続きを行うことになろうとは、当時からすれば夢にも思わないことだったでしょう。
2WDが実用化されない理由が試乗することで分かった気がします。先ずハード路面のオフロード走行には適しません。スタックする路面やグリップの悪い登坂においては1WDを凌ぐはずですが、普通のギャップ走行で、乗り手のテクニックが必要になってくる上、製造コストが増えるということで、メリットが少なかったことによると思います。それでも保存する上で少しでも走行性能を向上させたいというのが技術者魂ではないでしょうか。
下がノーマル(若干ハードスプリングかもしれないが履歴が不明)
上2本がBSさんからショーワ関係の試作屋さんに頼んでもらったハードスプリング。
当初は88年式のCR125のオプションで出ているハードスプリングに取り換えようと安易に考えましたらスプリングの外径がφ37でCRMのインナーパイプに入りませんでした。
CRMのスプリング径はφ35なのです。88CR125のハードスプリングはホンダの最後の在庫でした。ほしい人があれば安価でお譲りします。
従ってCRMに装着可能なφ35、L=530mmで最大限度のバネ定数ということで依頼しましたら、15%増しのバネ乗数で仕上がってきました。
スプリングのデータを参考までに記します。
ノーマル K0.487 線径φ4.82 外径φ35 ピッチ12 巻き数42 L530
ハードSPG K0.560 線径φ4.8 外径φ35 ピッチ14 巻き数36 L530
88CR125ハード K不明 線径φ4.7 外径φ37 ピッチ12 巻き数41 L514
CR125のバネ定数はパーツリストまたはSマニュアルに記載されています。
材料の熱処理状態が不明で縦弾性係数の数値から計算で求めることができませんので、バネ定数は、ばね試験機で圧縮して、荷重と変位のグラフから読み取る方法で計測します。
15%のバネ定数アップで10kgのバネ下重量に対応できるかどうかは次回(たぶん来年春)の動作確認のときにテストする予定でいます。
1年ほど放置しておりましたCRM250の2WDの続きです。
この車両は2輪駆動車の走行性能を確認するための実験車両なので、MXやEDを目的としているのではありません。前輪を駆動する方法やその運動性能について、机上の理論や想像で語る人は時々見かけますが、実際に走行可能な車両を作った例は非常に珍しいので、廃却されるのが惜しいと思って動く状態で保存しようと思ったのです。
実は某2輪メーカーで、これと同様の機構で試作車両を作り実走テストまで行いましたが、安全性とコスト高、舗装路面における不具合などの理由で市販車としては不適切と結論つけたものです。
おかげで世界に1台の稀有なマシンになりましたが、動態保存するためには時々走行確認する必要があります。
前回フロントタイヤが老朽化のため18インチのフロントタイヤを交換しましたが、サイズが太すぎてハンドリングが重かったので、今回は幅の狭いトレールタイヤに交換しました。
DL、D603 3.00-18
前回フロントに履かせたK695はリヤにコンバートしました。
100/100-18
2WDの場合前後のタイヤ周長が同じでないとタイヤの周速に差が生じて、タイヤや駆動系に負荷が掛かってしまいます。
直進時は問題なくとも、コーナリング時にトレッドの横に接地面が移動するため、周速が前後で違ってきます。それが舗装路でのハンドリングの重さに繋がったり、フロントに駆動力があるために、アクセルを開けたときにオーバーステア気味になるなど、通常の後輪駆動車と比べるとクセがある乗り味となります。
この方式の真価はフロントが回らなくなるような泥、砂地や急勾配で発揮するものです。
普通路面では後輪駆動車に対してメリットはありませんが、癖のあるハンドリングを味わってみたいと思います。新しい乗り方を追求してみるのも良いかもしれません。
一年以上ぶりに乗りました。コースはジャパンVETの前日で綺麗に整地された路面でしたが、フロントのストロークと減衰不足でコーナー新入のギャップで底突きます。ジャンプを飛んだ場合はもっと恐ろしいショックを受けるため、ジャンプ区間はスローダウンするしかありません。
コーナリング特性はやはり独特で乗り慣れるのに20分2ヒートが必要でした。
散水後のスリッピーな路面は当然前後タイヤが滑るのとフロントヘビーなので慎重になりますが、フロントタイヤに駆動力がありますので前輪が引っ張っている感覚が味わえます。
三つ又の幅はハンドルを切ってもチェーンが当たらないギリギリの寸法ですがフロント18インチのためかギャップで激しく振られることがあります。スピードを出したギャップ走行は要注意です。
結局通常のMXマシンよりギャップの浅いところを狙うとか、フロントから突っ込まないように工夫して走りますので体力が必要で、よいトレーニングになりました。今度MXマシンに乗るときが楽しみになりました。
周りのパドックに現行車は見当たりません。非常に楽しい雰囲気です。
83年型CR250は私が関東選デビューしたマシンと同型です。
新入社員で田舎者でしたから、プレイライダー誌(森岡さんが作った雑誌)の広告をみて、最初はモトレオン(後のロッキースポーツ)へMXer買いに行ったのですが在庫がなくて、帰り道にあったモトバムに寄ったら「取り寄せてあげる」といわれて初めて新車を買うことができました。勿論ローンでしたけど
こんなマシンもあって感激です。81年型無限ファクトリーマシンですがラジエターはアメリカのビルダーさんによる新品だそうです。
スイングアームはコークボトル、インテークとエキパイにはサブチャンバーが取り付いていたり、市販車と違う部分が多くてワクワクします。
81年型CR125は学生時代最後に乗ったマシンと同型で懐かしいです。
綺麗なKX250、75年型。私は中学1年生でした。このころは未だMXに出会ってなかったですが、月刊MC誌のカタログで知っていました。実車に2013年に出会えた奇跡です。
しかもオーナーの田山さんがビンテージクラスで快調に走らせているのを見て、飾りじゃないことを知りました。
他にもたくさん懐かしいマシンがありましたが、カスタムマシンではこれが目をひきました、上山さんのXT500.ビッグシングルなのに走りもよくて、エンジン、サスなどかなりチューンアップされた話を伺いました。
これをみて、鈴木忠男さんがXT500改で全日本参戦していたのを思いだしました。
体力トレーニングも出来たし、珍しいマシンも見れたし、結構満足できた一日でした。
無駄なことはやってみる。そうすればわからないことが見えてくるという例です。
ちょうど10年前、レースで上腕骨折って仕事ができなかったころに企てた改造マシン計画。YZ426とCRF450の初期型以外に4ストモトクロッサーが存在しなかった時代、ミニモト用の4ストエンジンを検討していたところ、排気量2倍の法則に従い、2ストの85ccの2倍は170ccということで、125エンジンの改造で170を作ろうと計画しました。
ベース車として選んだのはTTR125でボア、ストローク 54.0×54.0。このボアを最大限に拡大したら幾つになるかということ、ピストンリングは量産純正品を流用するために機種の選定を行った結果。
最大公約数は62.5mmになりました。その結果、62.5×54.0というオーバースクエアになりました。排気量は165.6ccで圧縮比13.0:1という高圧縮エンジンです。
足周りと車体のディメンションはCR85です。フレームを改造してエンジンスワッピングしています。タンクシュラウドはCR125用でオイルクーラーとCDIユニットが左右に振り分けて装着してあります。
エンジンのボアアップと車体作りを平行で進めて行きましたが、新規に装着したFCR28φのキャブレターが思わぬ苦労を招きました。
FCR28のTTR125に装着した例が国内にはなく、標準のジェッティングオーダーも皆無の状態でしたのでMJ、SJとニードルを複数取り寄せ手探りでキャブセッティングを決めていく作業が待っていました。このキャブレターは販売状態で走行すると、アイドリングは不能で加速中にエンジンストールしたり、走行不能なくらいセッティングが外れた状態だったのです。
大体、取り付けから問題でインテークとエアクリーナーに繋がるアダプターを製作し、強制開閉のアクセルワイヤーも付属してないので、YZ426用のワイヤーを切り詰めてタイコをハンダ付けして取り付けました。なんとか平地で走行可能な状態になりましたが、今度はギャップ通過後に息つきが起きてしまうので調べたら、MJ、SJ付近をカバーするバッフルプレートが付いていないことが原因でガソリンが踊ってしまうことがわかり、バッフルも製作しました。初めて使うということは誰からのアドバイスも得られませんから全て自分のノウハウで解決するということです。
ボアアップしたことによる問題は次々に起こりました。その前にエンジン特性はどうであったかというと、非常に低中速トルクが上がっていて、まるで別物のエンジンですが、高速はノーマルより回りません。重くなったピストンのせいというより、上がり過ぎた圧縮比のために回転上昇を抑えられている感じです。
最初の問題は2時間走行程度で来ました。オイルクーラーが熱くなっていない。即ち、オイルポンプが機能していないと思いました。そして間もなくシリンダーから異音が出てきたので、走行を止めて持ち帰りエンジンの分解点検を行ったら、なんとピストンピンが抜けて片側だけボスに刺さった状態でした。ピストンピンがクリップを打ち抜いて飛び出してきたのです。折れたクリップの破片がオイルポンプのローターに食い込んでオイルポンプを不能にしていたのです。
ピストンは4個、スリーブは2個作ってありましたので、壊れた部品は直ぐに交換して再トライしましたが再び同様な症状が出ていたので、ピストンピンが抜けてくる原因をコンロッドの剛性不足と判断し、強化コンロッドの製作に着手しました。クロモリ鋼を熱処理して硬度を上げ、断面積を増したコンロッドをつくり、クランクシャフトに組み込みました。
思惑どおり少し寿命は延びましたが、欲がでてきて高回転を改善しようとセッティング中、エンジン全開で回していたときに大破させてしまいました。ピストンがピンボスのところで割れてヘッドはバルブに衝突し、ピストンの無くなったコンロッドがスリーブを直撃して終わりました。
こうしてφ62.5のピストンが実用に耐えないということを証明する形となりました。メーカー純正品の実用強度が充分にできている裏には量産される前に数々の耐久テストと改良の繰り返しによって実現していることを改めて思い知りました。
FCR28装着のエンジン部分。ワンオフのエキパイやブレーキペダルはエンジンスワップした車体には必須アイテムです。CR125のシュラウド装着のため、専用のアルミタンクも製作です。
ボアアップエンジンは3個のピストンとクランクシャフト1本、スリーブ2個を壊した時点で中止しました。部品代30万円くらいが授業料となりました。
エンジンはノーマルのシリンダーとピストンに戻して、しばらく乗りましたが純正のレーサーより遅い車両は直ぐに飽きてしまい、それぞれのCRとTTRの車体に戻されて売却されましたので、TTR160の実車はこの世に存在しません。
拡大可能なボアの限界はシリンダースタッドの内側の円ではありません。タイミングチェーンの穴のほうがスリーブに近いため、ヘッドガスケットのチェーンホール側の幅が3mm程度残るくらいです。
鋳鉄スリーブの板厚も2mm程度になりますのでスリーブの剛性も限界です。
写真のピストンのスカート部に肉抜き加工が見えますが、実はピストン後ろ側にバランサーシャフトが存在して、下死点で干渉することがピストン完成後にわかり、削ったものです。ノーマルだと、勿論当たらないわけで、ギリギリの寸法で設計されているわけです。
点検により、亀裂発見されたピストン。
ピストンピンボスの横に(矢印付近)亀裂が確認できます。
このまま使い続けるとピストンが上下に分断されてしまうことになります。
世の中にはもっと大きなピストンはいくらでも存在するわけですから、ピストンピンボス周りの肉厚不足か材質不良か熱処理の問題か、いずれにしてもメーカー並みの開発費を投入しなければ分らない案件であると思います。
再生中だったCRM250の2WDですが、欠品していたフロントフォークのスプリングが組み込めましたので、走行可能な状態になりました。
世の中の多くの理論は聞いた話や本で読んだりした知識に基づいています。実際に体験したことと見たり、聞いただけの知識では、理解の度合いに大きな隔たりがあるものです。やってみなければ、答えがわからないから無駄なことに、お金をいただくわけでもなく大きな労力を費やしてきたのです。そして4輪メーカーがあれだけ多くの4WD車を普及させてきたのに、2輪の2WDが普及しない理由を身をもって体験したのでした。
この車両がトレール車のスタイルをしているため、試乗にはMXコースが適しているだろうと思いオフビレで走ってみました。
平な路面は、当たり前ですが普通に走ります。前後輪が互いに駆動力を持って転がっていくので両輪が別々の方向へ向かおうとします。そのことが独特の直進性とハンドルの重さを発揮するようです。この時点では普通の1WDの方が乗りやすいでしょう。
このクルマの構造上、MXコースを走るには問題がある点が大きく二つあるように思われます。
一つはこの三つ又の幅、ハンドルを切ってもフロントのチェーンが当たらないギリギリの幅ですが、ノーマルのそれとは大きくことなります。同時に幅広のフロントタイヤ、フロントアクスル。これらがハンドルを切ったときの慣性モーメントを増大させ悪影響を発生します。特に高速でギャップを通過するときに路面からのキックバックを激しく受けてハンドルを揺さぶります。抑えるのに相当な力を要しますので、危険でしょう。
二つ目はフロントの重量、駆動系とフロントホイールなど、おそらく10kg近く増量に加え、フロントフォークが89年式のノーマルなので、明らかにサスペンション性能不足です。中型のオンロードバイクでジャンプを飛ぶくらいのイメージです。あっさり底突きしてしまいますので、深いフープスや連続ジャンプの走破は無理でした。そもそもMXではフロントを上げてギャップを通過するテクニックが必要ですが、このクルマでは苦手です。こういう結果でオフロードをハイスピードで走ることには適さないという結論に至りました。この2WDの真価を発揮するには、グリップの悪い登坂路面か、タイヤが潜ってしまう泥か積雪の路面のような場所が適しているでしょう。また機会があれば、雪が積もった日にこのクルマを持ち出して試乗してみたいと思います。1WDでは走行不能なコンディションであれば2WDのすばらしさを堪能できると思います。
以上が2WDが市販されない理由だと思いますが、この問題点をクリアさせる技術開発をおこなったとしても販売台数的に利益が見込めないと2輪メーカーが判断したと想像します。いずれにしても、貴重な実験車両を保存して、いつでも走れる状態にしておきたいと思います。
欠品していたフォークスプリングも何とか中古品が見つかり組み上がりました。
赤色に塗装されていた、リヤフォークやフロントフォークアウターチューブ、そしてチャンバーの剥離を行って、見た目スッキリさせました。
チャンバーは10年ほど前に自分で作ったやつなので、嫁に出した娘が帰ってきたようなものです。無数の傷がついてしまいましたが、凹みも直しましたので、まだ使えそうです。
今度こそ2輪駆動体験走行できます。
実は、この車両の他に2台2WDのマシンがあります。XR250とTW200ですが、XR250はホンダEGの吉田さんの後輩、加藤さんにあげたそうです。
TW200はまだ残っていますが、モータージャーナリストの万沢康夫さんが試乗して雑誌でインプレッションしていました。
このCRM250は元ホンダテストライダーのウイリー松浦さんが試乗して雑誌でインプレッションしました。他に乗ったのは本田社員限定のHGエンデューロでEGの元木君と佐野君が乗ったので、私で4人目の試乗者ということになりますが、リヤサスとフロントフォークを整備してしまいましたので、今度は真面目に攻めてみたいと思います。
転倒で変形していたラジエターとアルミのサイドカバーも修理してリフレッシュした外観になりました。
クローズドコース専用にしましたので、ヘッドライトとスピードメーター、インジケーターランプも取り外し、ステアリング周りを軽量化しましたので、これでレーサー感覚です。
後は前後サスの性能がいかがなものか・・・
今週はMX日本GPでSUGOへ行きますので、来週乗ってみたいと思います。
4WD車には3つのデフがあります。フロントデフとリヤデフ、そしてセンターデフですね。デフはクルマが曲がるとき、左右の車輪の回転差を生み出しますが、前後輪の回転差も発生しますので、それを吸収する装置がセンターデフということです。デフがないと回転差のあるタイヤ同士が抵抗になって滑らかな走行ができなくなります。2WDにもセンターデフのような役割の装置が備わっています。それがワンウェイクラッチです。
右側のスプロケットがカウンターシャフトのスプラインに嵌って動力を取り出します。
左のスプロケットからフロントの等速ジョイントに動力を伝達するのですがその途中にあるのがワンウェイクラッチ。自転車のフリーハブと同じ構造だと思うのですが、開発者の吉田さんがワンウェイクラッチというので、そう呼ぶことにします。
その働きは、エンジンの回転方向には常に動力が伝わっていますが、逆方向にはフリーになって空回りします。
即ち、加速中は前後輪が同じ回転数で回りますが、後輪にブレーキが掛かったときにワンウェイクラッチが空転して前輪にブレーキがかからないということです。それは、常に後輪より前輪の方が速いか同じということを意味します。
デフの働きとは違いますが前後輪の回転差を吸収し、前輪が抵抗にならない状態を生み出すものです。
通常の後輪駆動車では前輪が常に走行抵抗になりますが、2輪駆動ではそれが極端に少ないことになります。泥や砂のような転がり抵抗の多い路面で、その違いがはっきり表れるでしょう。
私の作業場からわりと近くに開発者の吉田さんは住んでおられて自転車で来られましたので、開発秘話を聞きました。
吉田さんは昭和30年代に本田技研に入社していて浅間火山レースや世界選手権のレーサーのエンジン部品を加工されたそうです。
250cc6気筒のRC166のクランクシャフトなども旋盤で削りだしていましたので、当時のワークスライダーのマイク・ヘイルウッドのテスト走行にも立ち会ったそうです。そのときの印象はヘイルウッドはどんなマシンでも乗りこなしてマシンの文句は一切言わなかったそうです。並列6気筒は他メーカーのマシンより大きく重かったはずなのに、シーズン全勝して見せたことが、与えられた道具を巧く使いこなす能力があったということです。
吉田さんの小中学校の同級生に神谷忠さんがいるそうで、通称カミチューさんは本田技研朝霞研究所の主任研究員のころに「ギャップの走破性を上げるにはタイヤが大きいほうが有利だろう」ということでオフロードの傑作、23インチのフロントタイヤ開発を指示したこともありました。
昔、栃木のテストコースも無かったころ、荒川の土手の横がテストコースで、神忠さんが、同級生の吉田さんに「耐久をやるから手伝ってくれ」とたのんで、真冬にテント張って泊り込み3交代で耐久テストをやったこともあったそうです。
コレクションホールの小林さんが「ガソリンエンジンもディーゼルも作ったがやってないのは蒸気機関だけだ」といってJR大宮の車両整備場でC57の図面をいただいてきて、20分の1サイズの機関車を作ったときも、吉田さんがピストンの加工を担当したそうで、石炭燃料で走る機関車はたった3年の製作期間で完成していました。この鶴ヶ島界隈は本田OBの巣窟のような場所で、生産技術やレストアなどで世界でも類を見ない達人の住んでいる場所であることに間違いないと思いました。
なんとか、そんな開発者魂のこもったオートバイを保存して語り継いで行きたいと思いますので、微力ながら、2WD車を稼動させる決意をもったのであります。
左サイドビュー、フロントの駆動系をカバーするアルミのパネルは板金物。
ラジエターはフロントのチェーンを避けるように外側にオフセットされてアルミのパネルと結合されています。
左足のホールド性は思ったより悪くなく広い面でブーツを支持する感じです。
キャブの調整は、カバーの後ろの窓からなんとかできますが、少しやりずらい程度です。
ゼッケンは肉、ではなく2駆ということで。
トレールモデルらしくバッテリーレスですがエンジン始動すればヘッドライトも点灯します。
フロントホイール上部のドライブシャフトとフロントフォークが干渉しないように幅広の三つ又を作成し、フロントのチェーンラインも確保されています。
タイヤは18インチのリヤ用を装着しています。
フロントフォークは88モデルCR125に交換されていますが、今回の試乗に際して点検をしなかったため、試乗は失敗に終わりました。
まず、固い路面で乗ってみましたが、明らかにフロントフォークが柔らかく、直ぐに底づいてしまうため、高速走行は断念しました。
前後輪に駆動力が発生するということは、後輪だけのトラクションより明らかにタイヤのグリップ力があります。ハイパワーなマシンで急加速した場合、リヤタイヤだけ空回りするわけですが、これは
一台のマシンを二つの駆動輪で運ぶわけですから、排気量以上に強烈な加速感を味わえます。
ウッドチップの山がありましたので登ってみました。
予想どおり簡単にのぼれます。フロントタイヤが引張り上げてくれる感覚で、助走なしでゆっくりでも上がれます。
降りるときもジャックナイフになりそうな勾配ですが、フロントタイヤが回ってくれるのでテクニックは不要です。
柔らかい路面を走るときは、このマシンの真価を発揮します。
フロントが抵抗にならないで引っ張って走ってくれることが、普通の2輪車ではとても味わえないことです。
問題のフロントフォークを直して、今度はフープスやジャンプの走破性も確認したいと思います。
フロントフォークを外すにはフロントの駆動系も外す必要があります。
錆び落としも兼ねて、全部外してみました。下から、ドライブスプロケットとフリーハブのセット。
中はフロントフォークへ接続するエクステンション。
上は等速ジョイントを介した動力伝達機構。これがステアリングを切りながら回転運動を伝える方式です。
フロントフォークを外すと不具合の原因が即座にわかりました。片側のスプリングが部品取りされていました。一本のフォークで走っていたわけです。
分解中にも問題が、等速ジョイントのホルダーがアウターチューブに圧入されていますが片方が全く抜けません。おそらく錆びて固着しているのでしょう。これを抜かないと、オイルシール交換も不可能です。仕方ないので切開して外すことにします。勿論、ホルダー新作する前提です。
段々レストアになってきました・・・
88CRのハードスプリングが残り2本で廃番になるところでしたが注文間に合いました。
走行距離は500km、エンジン快調のまま5年以上放置されていたCRM250です。
2輪駆動の特許内容は「カウンターシャフトからの動力をチェーンで前輪に伝達する」
この方式で某メーカーが4輪バギー車を生産したことがありましたが、発案者の吉田さんから意義申し立てを行ったところ、販売を海外向けだけに切り換えたことがありました。特許庁の権限は国内だけ適用のためです。そのために国内で生産されることの無かった駆動方式なので、何とか保存できないものかと切望します。
まずは、この車両の走行性能を体験したいと思うのですが、開発者の吉田さんがリヤサスペンションを福祉車両の懸架装置に流用するため部品取りされていますので、リヤサスペンションの手配を行いました。
89年式なので純正部品は既に廃番になっています。中古品を探したのですが、初期型のショックは鉄ダンパーでした。
そこで、2型のアルミダンパーを選びました。アルミダンパーなら現行のレーサー用部品が組み込めるので、あとでチューンアップが可能になるからです。
しかし、ショックの全長が取り付け軸距離でノーマルの350mmなのに対し、2型は380mmと30mm長いのです。
そこでアンダーブラケットの穴位置を15mm上方に空け直し、シールケースのストッパー厚みを15mm追加して合わせて30mmショック全長を詰めました。ダンパーのストロークは15mm短縮したことになりますが、ホイールトラベルを確認したいと思います。
全長詰めたショックが組み上がりましたがリンクも部品取りされていますので、製作しなければなりません。ノーマルの寸法は吉田さんの福祉車両から測らせていただいたので、加工する材料は手配しました。
来週、入荷したら加工にかかる予定です。
ショックが組み上がったら車体につけてみたくて、我慢できずにダミーのリンクを作って取り付けしてみました。
リヤサスの作動確認とホイールトラベルを測ってみたかったのです。
ダンパーのストロークが15mm減っていますがホイールトラベルは294mmもあり十分なストロークではないかと思います。
来週、リンクが完成したなら、いよいよ走行するための整備ができます。
リンク切削中です。材質はA7075、これはオフロード車のスプロケットに使用されるものと同じで、熱処理はT6を施します。
T6の前にT4を行いますがT4は溶体化処理といい、材料は一旦柔らかくなります。材料内部の応力を取り除く効果があります。
溶体化処理の後、T6即ち強制時効をおこないます。アルミニウムは時効硬化する材料として有名ですが、熱処理を行うことで短時間で所定の硬さに調質できます。
プロリンク完成、ベアリング圧入完了
圧入部内径はベアリング外径と同じ寸法で、締め代ゼロ狙いで加工すれば圧入加重が調度良くなります。
テンションロッドはアルミ化により板厚アップしてありますので、ボルトの長さに合わせて座グリ加工してあります。
プロリンク取り付け完了。廃番の部品を探す時間が勿体無いので、作った方が早いということです。
サイレンサーも壊れて無くなっていましたので、新造しました。89モデルらしく丸パイプでシンプルなデザインにしました。
これで、試乗するのに必要な加工は終わりましたが、長年放置されたらしくタイヤがひび割れていますので、タイヤ交換が必要ですね。
思いついたら即行動。タイヤショップに注文して待っているより、うちからスクーターで10分の東福寺エンタープライズに買いにいくことにしました。タイヤは18インチなので東福寺さんが現役のころ使ったやつが残っているはずだと。そうしたら予想通りホイールに履かせたやつが1本だけありました。最後の1本です、ラッキーでした。
ダンロップK695 100/100ー18をフロントに履かせた車両は、こいつだけでしょう。フロントの駆動系のため、フォーク幅が広く、ドリブンスプロケットを取り付けたハブはワンオフでアクスルシャフトも長い一品物です。右側アウターチューブに取り付けられているのはチェーンテンショナーです。
これで走行する準備が出来上がりました。近いうちに2輪駆動体験走行してきます。
2 WHEEL DRIVE 2輪駆動車です。この方式は製作者、ホンダEGの吉田さんの特許でした。
カウンターシャフトからの動力をチェーンで取り出し、途中フリーホイールを介して前輪に取り付けたスプロケットにチェーンで伝達するという内容で、他の2輪メーカーでも研究はされていたようですが同じ方式の2輪車は量産されたことがありません。
この車両は22年前に朝霞研究所から依頼されて製作された試作車ですが、当時の2輪雑誌にも取り上げられていましたので40歳以上の人なら記憶に残っているでしょう。
この車両が本領を発揮するのは、マディ路面やサンド質です。フロントタイヤが抵抗になって走りづらい場面でも問題なく走っていけます。
実際に山形県のビーチエンデューロに出場して上位入賞も果たしたそうです。
現在は走らせる機会もなく部品取り状態になっていますので、私が復活させて動態保存させていただくことにしました。リヤショックがリンクごとはずされ、フロントブレーキも固着して使えません。欠品部品を装着し、各部オーバーホールして運転可能な状態にする予定なので、完成したら試乗インプレッションを当ブログで報告します。
駆動系のカバーをはずした状態。
ドリブンスプロケットのチェーンははずしています。シリンダー横のハブはフリーホイールになっています。
これは前後輪の回転差を吸収する機構で
フロントの回転が遅い場合にブレーキになってしまいハンドリングが重くなることを防ぐため若干、フロントを速く回します。
ブレーキを掛けた場合、フロントの回転が落ちてもフリーホイールが空転するので後輪のドライブに影響は出ません。
フロントタイヤは18インチ。ドライブスプロケット付きです。
ステアリングセンターに等速ジョイントを用いてハンドルを切っても左右の動力伝達はスムーズに行われるためハンドリングはノーマルに極めて近い印象です。
赤色の耐熱塗装を施されたチャンバーは10年ほど前に私が製作したもの
仕事の合間にレストア作業するため完成時期は未定ですが1年以内に走行可能な状態にすることが目標です。
【サイドビュー】
コンセプトは、買ってきたものは(メーカー純正品以外は)極力使わない。自分で手間をかけた部分だけがオリジナルなのだ。
新品のホイールをばらして、リムはアルマイトにハブは塗装で足回りを引き締めて魅せる。
エンジンも下ろしてフレームやリヤサスも塗装する。
やはり、うちのレーサーは黒が純正のカラーだろう。
しかし、プラスチックパーツは本職のデザイナーが作った純正のままがいい。
実は黒と赤の色のコーディネートが最強の色相なのだ。
余計な飾りも不要、ノンスポンサーを強調することが、オリジナルの意気込みを表現する。
要するに、人にやってもらったことに対してあまり価値観を見出していなくて 自分で手間をかけた部分にマシンいじりのロマンを感じているわけだ。
【サイドカバーはずし】
チタンニウムのエキパイは去年から使用している物でエンジン特性が気に入っているので再使用した。
焼け色が変わっていくのも楽しみの一つ。
全体が焼けたら、サンドペーパーで磨いて何度でも新しい焼け色を楽しめる。
一見ノーマル風のサイレンサーは中身とエンドパイプがオリジナルのものに取り換えてある。
シングルのエキゾーストをデュアルに作り変える試みだが、排気音とパワーの出方を変更する目的だ。
アルミのブレーキとチェンジペダルは他機種の純正部品で流用しただけ。
フロントエンジンハンガーはノーマルの高張力鋼板から超ジュラルミンの削り出しに取り換えてある。
【リアフォーク・スプロケット】
150R最大の欠点であるリヤフォークの強度不足を対策した補強リヤフォーク。
7Nー01材で曲げ応力が最大になる箇所の断面積を30%増して対応している。
町工場はメーカー任せにする必要はないのだ。
一見スペシャルのスプロケットはノーマルベースで112個の穴空けをして軽量化した。
ノーマルはなんと、820gも重量があるのだが、570gまで落とした。
しかし、タロンのアルミは270gしかないので2倍の重量だ。(残念)
但し、耐久性は3倍くらい期待できるので、コストパフォーマンスで断然勝っているはずだ。
テスト中の新型構造はマフラー内部で二股に分岐させ、2本のパンチングパイプを通って排気され
る。
ノーマルの開口面積と同等の2つ穴にした場合、約1dB排気音が上がることが分かった。
排気を2列にすることで排気ガスの流速があがるためと思われる。
これがパワー的に有利だということを示しているのだが、あとは、パイプ径の調整をすれば音量のコントロールも可能だ。
とにかく、いつも同じマシンに乗っていたのでは、ライディングそのものの情熱が冷めていってしまうので 常に新しい試みと、ベストコンディションを保つメンテナンスを怠らないことがモトクロスを長く楽しむ秘訣ではないかと思う。
2スト車の車体に4ストエンジンのスワッピング(換装)は何度もやってきた。 しかし今回のスワッピングは今までのとはわけが違う。
これまでのエンジンは旧式の空冷2バルブであったのに対し、これは新型の水冷4バルブだ。 おそらく日本で初めての組み合わせだろう。前後サスペンションはホワイトパワー。リヤはリンクレス。 ブレーキはフォーミュラの対向ピストン。国産には採用されないヨーロッパ製品が目を引く。 画像はエンジンのレイアウトを検討している様子でエンジン位置は決定したがフレームのパイプは繋がっていない。高くなったキャブレターにあわせたエアクリーナーの変更、シリンダーヘッドをかわしたガソリンタンク製作、フレーム中通しの専用エキゾーストパイプetc.難題山積みである。 おそらく実走できるのは夏頃だろう。
この製作計画を聞いて殆どの人は無意味だとか、改造しないでそのまま乗るのが一番いいとか思われるだろう。 実は製作を担当している自分自身も同様に思っていたのだが、製作を諦めさせる説得をしながら、自分の気持ちが完成させて走らせてみたい方向に変化していった。
これを無意味なことと思う人は、マシン選びにどれ程の理由があるだろう。 メーカーのイメージであったりレースで上位を走る機種であったり、バイク店との付き合いであったり。いずれにしても明確な根拠は存在しないはずである。しかも、高額な支払いをして手に入れたマシーンも翌年にはあっさりモデルチェンジされて旧式になってしまう。本当に乗りたいものを決める手段が完全にメーカー任せになっていて、お客さんは踊らされている状態だ。そんな宛がわれたような選択肢では、ただ流行にながされて、他人の真似しかしない日本人の一員になってしまう。
他人と違う方式を試みる精神がこの車両の製作に現れているではないか。 これが完成して走っている姿をみて、どんな乗り味なのか興味を持つ人は多いだろう。しかしその答えは作った者、乗った者にしかわからない領域だ。
無意味だと思う人には一生わからない答えだろう。 そしてこの製作を実現する手段に弊社を選んだ依頼者に満足していただくために腕を振るわなければならない。