2012年6月アーカイブ

CIMG1284.JPG

NSR250R 89モデルです。これはチャンバー製作のためお客さんに持ち込んでいただいたものですが、私が会社員時代に新車で購入して乗っていました。

2年ほど通勤やツーリングで使用しましたが出張が多くなり、オートバイとも不縁になりがちで段々乗らなくなり手放してしまいました。

あれから25年も経つのに、このように綺麗に保存されている人がいることに感心します。

 

買いなおそうと思っても、この年式は高額になっていることと、純正部品も絶販が多くなってきていますので止めておきます。チャンバー製作記は後日(1ヶ月ほど)掲載することにして

今回の題材はこれです。

CIMG1287.JPG

純正のサイレンサーですが、この何気ない部品に非常に高度な鍛造技術が使われています。

このボルト締めのフランジ部分と筒が一体成型であること、この製法が想像できるでしょうか。私は別の部品製造の打ち合わせで某鍛造メーカーへ出張したときに、この部品を見つけました。ホンダが発注するサイレンサーのメーカーは別にあるのですが、その会社から手配された2次メーカーだということです。

一般的には認知される企業ではありませんが鍛造専門として自動車工業界を支えている重要なスポットにあると思います。当時の打ち合わせの目的は、設計からは図面が出され、購買部でメーカーを選定して発注する、製作所では部品を受け入れて組み立てる。という自動車製造の流れの中で部品メーカーと受け入れ側の取り決めを行っていないと、担当が別々の人間が行っているので勝手に作られると量産が成り立たなくなるためです。

搬入の何週間前に発注するとか、ロットの大きさ(一回に製造する数)などは購買で取り決めします。私の担当は受け入れる部品に不良が混入しないための取り決めです。不良の検出は検査によって行いますが、製造工程で不具合を出さないことが重要で、そのための重点管理項目はどのようになっているか、現場ではどのように行っているか、実際に確認する必要があります。

そんな製造現場で見てきたものの中にこのサイレンサーのような一体成型があったわけですが、特殊な金型と大型のプレス機を使って、ビレット(仕込み重量と形状を管理された材料)を金型に押し込み、筒の部分は金型の隙間を滑りながら伸びてくるという、想像を絶する塑性変形を伴います。

通常は冷間で行うようですが、このような変形抵抗の大きいワーク(製作物)は必要におうじて加熱炉で温めて柔らかくしてから鍛造します。ここで、非常に高荷重で金型と材料が滑って変形していきますので金型と材料には特殊な潤滑材も塗布されています。

普通の鍛造はワークの型抜けを考えて「抜け勾配」がついているものですが、これは抜け勾配ゼロなのです。押し出し成型に近い製法であることが伺えます。

CIMG1286.JPG

これがエンドキャップ部分ですがフランジを内側カーリングで荷締めて固定されています。

これで非分解部品となるわけですが、ここまでの工程でサイレンサー外筒部分にフランジのタッピング以外に加工はありません。

全て金型と専用機で成型しますので人間の手作業はワークの運搬だけということになります。

品質は工程で作られるもの、人為的なミスや熟練の度合いで製品がバラつくことを防ぐということが量産の考え方でした。

なにしろ切削加工なしでサイレンサーが出来てしまいますので、無駄がありません。こういうことを業界用語で「歩留まりがよい」といいます。厳密にコストが算出され、安価に提供せよという親会社からの要求に応えた形ではないかと思います。

今の私の仕事は全く逆のことをやっています。量産はできないので、一個だけ作る人為的技術が製品の可否を左右します。おそらく量産を経験していないと、こういう発想も起こらなかったでしょう。

CIMG1280.JPG

シングルで最大排気量はDR800だと記憶していますが、これは2番目に大きいやつです。車体も大柄でいかにも外人向けな作りです。キックスターターもありません、セル始動なのが唯一の救いです。フルエキゾースト製作の依頼をお引き受けしたのですが、オーナーの境遇を聞かされて大変恐縮して作業に取り掛かっています。

それは、ご自宅が福島の強制避難区域にあるということ。避難先の社員寮に他のオートバイと一緒に移住しておられて、200km以上も自走して我社に車両もってきていただきました。

それを聞いたときに心を打たれました。原発事故がなければ自宅でそのまま好きなオートバイを大事にしながら過ごせていられたはずなのに、こんなことになってしまって・・・。幸い職場は再開されて経済活動はできていらっしゃるようですが、オートバイのことをあきらめないで乗り続けておられることに喜びを感じます。おそらく、大変多くのオートバイフリークが原発の影響を受けて、好きなことを諦めてしまったんじゃないかと察していたところです。

せっかく日本の原発がゼロになったというのに大飯原発は再稼動されるということです。高度成長期以降の日本の経済成長は原発を含めた電力がなければ不可能だったでしょう。もちろんこの経済を維持しなければ、社会保障や高齢者医療の財源が捻出できないということも充分理解できます。

しかし、原発再開に導く政策を決めているのは都市部の便利で快適な生活を営んでいる富裕層であろうということ、こういう人たちは、もう少し田舎に引っ越されて質素な生活を経験した方がいいと思いますよ。浪費している一部の人たちの幸福という名のもとに生活レベルを支えるために大きな犠牲を払ってしまった。なにより、処理困難な核廃棄物を作りつづけ、使用済み燃料プールももうすぐ満杯になってしまうというのに、最終処分の方針も全くきまっていないまま、この経済活動を続けるという動きは確実に将来、大きな災難が降りかかってくることを意味しています。何の反省も改善もみられない、事故の収束も止まったまま、国家のリーダーたちの采配に落胆するばかりです。

CIMG1279.JPG

現実は待ったなしです。先送りはできません。

結構仕事溜まっていますので、長くお待ちいただいているお客さんの希望に応えるために働き続けます。

XR650のデュアルエキゾーストは複雑な曲げカーブが必要なのでSUS304のパイプをこれだけの数曲げて、取り回しします。

SUS304は耐熱合金なので800℃くらい加熱しても強度があまり変わりません。手首の靭帯が切れてしまいそうな力を込めて曲げなくてはなりません。

CIMG1281.JPG

R曲げ9箇所になります。

溶接つなぎ終わりました。

クロスしたエキパイの製作は通常の1本ものと比べると加工時間が3倍になります。

ところが費用も3倍にはできないというところがこのエキパイの難しいところです。

材料代は現金で仕入れておりますので削減できませんが、人件費を削減して対応しております。

 

 

CIMG1282.JPG

ヒートガードも頼まれましたのでアルミ板金で製作しました。

最初はカーボンファイバーで、と言われたのですが我社では樹脂は扱っていませんので外注することになりますが、おそらくマフラー代よりも高額なヒートガードが出来上がってくると思いますので予算オーバーになります。

そういうわけで、これでしたら半日あれば充分なので迷わず実行です。

 

 

CIMG1283.JPG

フルエキゾースト完成です。

エンジン始動してみましたが、さすがビッグシングル!セルモーターでも始動にはコツがいる感じです。ホットスターターは付いていないCVタイプのキャブです。

たぶんキックスターターだとこのマシン嫌いになるでしょう。

チョークとアクセルチョイ開けの併用で目覚めました。バッテリーの電圧が命ですね。暖気運転中、エンジンストップして始動不能になって焦りましたが、10Aヒューズが切れていました。結構な発電能力を持っているようです。

ブローバイガス還元装置は取り外し大気開放にしましたのでエンジン回転が軽くなった気がします。ブリザーチューブから排出される圧力がエンジン内部に掛かっていることを考えると馬鹿にできないポンピングロスなのだと思いました。ノーマルの還元装置はブローバイガスをキャッチタンクを介してインテークに戻すしくみになっています。すなわち、エンジンの吸入負圧でケース内の圧力を抜くと同時に未燃焼ガスを再吸入して燃やすという働きをします。この装置を取り外したメリットはブローバイガスに含まれたオイルミストなどをインテークに吸引せずインテーク通路をクリーンに保つということです。万が一装置が故障してもケース内の圧力が上昇してしまうこともありません。

 

 

 

 

マン島の公道レースについて否定的な意見の人もおられるようですが、正しい論理で批判されているということを理解しながら、現代のモータースポーツと交通社会の係わりについて思うことがあります。

批判の要点は競争社会をベースに市場原理主義の縮図としてライダーや観客の命を軽視した観光産業と言われています。これはマン島TTレースの百年間に224名の死亡者を出しても懲りもせず、毎年危険な公道レースを続け、犠牲になった人は自己責任の名の下に葬り勝者を賛美しているどうしようもない人間の集まりと批評されているわけです。

そのように採られてもしょうがない一面はあると思いますが、これは合法で運営されている以上、日本の道路で交通違反をして事故を起こしている人たちからは批判を受ける筋合いは無いでしょう。私個人的には2輪の運転技術に公道やレース場の境界は無いと思っています。同じ技術をベースに道路に合わせて運転しているだけです。運転技術が高いということはレースの成績が良いことと、公道で安全に運転できるということに相関があるはずです。

日本では毎年1万人位、自動車事故で死亡しているらしいですが、自動車業界こそ競争社会、市場原理主義の象徴と言え、一部の顧客からの危険運転により交通事故が起きている現状をわすれてはなりません。少なくともモータースポーツに参加している人は運転技術の向上を目指して練習しているわけで、練習もしてないで道路で危険な運転をされては危なくて仕方ありません。

クローズドコースにおける技術より公道レースにおける技術の方が実際の交通の流れに入ったときに有効だと思います。実際の生活道路で限界の走行ができるのですから、法廷スピードで走ったときの安全性はレースに参加してないドライバーとは比較にならないでしょう。唯、レーサーだって人間ですから僅かなミスや疲労が重なって、レース中に事故が起きてしまったので、これを批判するよりレース経験も無いのにスピードを出す一般ドライバーに対して指導したほうが効果的というものです。

道路を走行中によく見かけますが、安全な車間距離をとって走行しているのに、周りのクルマよりスピードを出して割り込んでくる輩がいます。衝突しないのは周囲の運転者が避けてくれているだけということを理解する必要があるでしょう。上手い人は他人に不安を与える運転はしないはずです。

本題から離れてしまいましたが、公道バージョンのCRF250Xにレーサー用のサイレンサーを取り付けてみました。

CIMG1232.JPG

これはお客さんの依頼でエンデューロレースに出るために作ったサイレンサーで、250Xのノーマルより軽いこととパワーも上がっているはずです。

250Xのサイレンサーは米国EPA(環境保護庁)の認定を取っていますが、排気ガスの浄化より、枯れ草に火炎が飛ばないためのスパークアレスターを装備していますのでレーサー用より重いのは仕方ありません。

国内のエンデューロのスパークアレスターは義務付けられていませんので問題ないでしょう。

トレールバイク以外ではMXレーサー用のチャンバーとしては最も長く作り続けている車種YZ85です。80cc時代も含めると17年になります。

現在使用している組み立て治具に年式が書いてあるのですが、02年とありますので10年間同じ型で毎年製作してきたということです。本体のエンジンも01年あたりで、クランクケースやクランクシャフトが一新されましたが、そのまま開発は止まっているようです。 CIMG1179.JPG

YZ85は80時代に比べれば低速トルクもありますが、それでも排気デバイスを持った他メーカーの車種に比べると高回転高出力なエンジン特性です。

このチャンバーのコンセプトは低速から中高速へ繋がるパワーの上昇をフラット化して乗りやすくしてあります。ノーマルでも高回転をキープできる技量のライダーなら速く走れますが、低速コーナーが続いたり、スリッピーな路面では神経質にならざるを得ないでしょう。そういう部分で乗り手を助けてくれるはずです。

サイレンサーにおいては排気抵抗を軽減して軽いエンジンレスポンスを目指しつつ騒音もノーマル以下を実現しました。

これは車両が今でも新車販売されていることもありますが、若年層を中心に扱いやすさが評価されていることで製造が継続できていると考えられます。大体年間10台ほどの注文がありますが、仮にまとめて作るとすると20日くらいで出来ます。1ヶ月に満たない仕事量ですが、10年間継続してきているということで、この企画が間違っていなかったものと確信しています。

4ストのYZ150Fの噂もありましたが、欧米で需要が見込めないと判断されたとも言われていますが、メーカーとしてもミニバイクに250クラスと同等のコストをかけて販売するという暴挙にでる必要もないという冷静な判断の結果です。

しかし、この先10年、20年と同じエンジンを作り続けるとは思えません。時期モデルがどのように変化していくかが興味を持たれるところですが、おそらく20年後私が生きている保証がありませんので、やるなら早くやっていただけませんかヤマハさん。